森守のブログ

放送と社会問題について

NHKさん、「週刊こどもニュース」がなぜ良かったのか忘れてませんか

「こどもの日」記念で、NHKが「報道番組の子供向け化」を試験的に行なったらしい。

tver.jp

www.nhk.or.jp

林修先生が出演した方は、「林修先生が出演した」こと以外は特に触れるべき内容はなく、「シュザイダー」なる声優の宮野真守がアテレコして、水木一郎が主題歌を担当した方も、その事以外は特に触れるべき内容がない、通常のNHKの報道番組だった。

どちらも民放やアニメ業界の第一線で活躍する人を起用したという点は共通しているが、決定的にNHKが勘違いしている事があると思う。それは「外と中は必ずしも一致しない」ということである。例えば、ジャニーズ所属アイドルがニュース番組のキャスターとして活動しているとしよう(実際ほぼそうなってるが)。では、ジャニーズファンの多くがニュースそのものへの関心を深め、議論するようになるか。きっかけの1つとしてはあり得ると思うが、結局はその視聴者個人個人がどう考えるかであって、いわゆるメディア用語での「単純接触効果」というものはおよそ期待できない。

いくら、人目を引く努力をしようが、報道も「コンテンツ」である以上は中身次第なのである。例えば、今回北朝鮮や仮想通貨について扱っていたが、そこをどう伝える・関心事として共通化させるか、議題設定効果と呼ぶが、そこがメディアの力量なのであって、有名人を起用して客寄せパンダにしたところで、肝心の演目が結局は今までどおりならば、従来どおりの状況が続くだけである。

もし、そこに気づかずにNHKが今回やらかしたとしたら、プロデューサーは勿論経営陣が何のためにいるか、頭を抱えざるを得ない。こういう大所高所から議論しなければ「みなさまのNHK」とは名ばかりに、勘違いしたおじさんが急に星野源みたいな格好をして職場に現れた、みたいな痛い状況を繰り返すだけだろう。

「メディアの世論形成能力」を考える事自体が危険性のあるものだし、単純に答えが出るものではないが、NHKがかつてのような公共性を考えるならば、私のような20代30代ならば、「週刊こどもニュース」が挙がると思う。今は民放で活躍中の池上彰当時NHK職員が、1990年代に日曜日の朝・夕に番組を持っていたわけだが、これは子供ながらに「世の中のニュースに触れて楽しい」と思えるものだった。そこで「分かりやすい」という以上に重要だったのは、出演していた「子供」との対話があったことだと思う。無論、報道とは言え演出として制作している以上は、どこまで自然なものかという疑問があるが、対話をすることでより説得力を増すというのはあり得ることで、子供が入り込むには、「私がこう考える」という視点を持ち込む為の仕掛けこそが大事だと思う。

そして、今回制作された2つの番組は、その視点が完全に欠落していた。まるで「私達が真実を取ってくるから、それを視聴者は見ればいいだけ」と言わんばかりの姿勢が透けて見える番組だった。確かに、NHKの取材は一定の真実性を持っているのであり、全否定するのもまたおかしな話であるが、人間というのは「外と中」どちらも見ているのである。変に押し付けがましい番組ばかり作るようでは、どれだけ正しいことを言おうが、信頼性が落ちる。そこが、研究者が決められたフォーマットで真実性を担保すればいいだけなのとメディアが「どう社会と対話するか」というコミュニケーションの問題が独立してあることの違いであろう。

私は、取材陣自体の努力を否定はしないが、「演出」に関しては少なくとも報道スタッフにノウハウが決定的に欠落しており、今回悪いところだけで突っ走ったのだと思う。NHKのような巨大組織だと、各現場での意思疎通が過小であり、各現場での反省が共有されない問題はなかなか取り払えないが、そんな事は様々な番組をザッピングする視聴者には関係ない。NHKも委員会でのメディアリテラシーのなさそうな政治家のおじさん・おばさんばかりと相手をせず、NHK番組モニターをより活用して、「みなさまのNHK」を実現して欲しいものである。

 

ここからは脇道に逸れるが、NHKの組織内に「世論の空気が読める」部分が全くないわけではない。例えば、教育番組でもだいぶ「現代化」としての番組改編が進んでいるが、それは直に子供そのものと向き合わなければ意味がないという制作スタッフの意識と「教育現場の試行錯誤」という日本の学校社会の成果だろう。実際、どこまでそれが効果を上げているかは分からないが、その努力は一朝一夕に実るものではないし、少なくともNHK総合が「やらかした」ことと比べれば着実なものだと思う。

ついでに言うと、NHK総合には「LIFE!」というお笑い番組があるが、この中のコントも脚本がしっかりしており、政治ネタも(バラエティなので「報道」ではないが)自然に出して、視聴者のシニカルな笑いを誘う仕掛けが散りばめられている。

もしNHKが試行錯誤をするならば、まずはNHKの歴史の中にそのヒントがないか探した方が早いと思う。