森守のブログ

放送と社会問題について

NHKがもし「忖度」していたならば 山口達也レイプ未遂事件と報道の現場

ジャニーズ事務所所属・山口達也TOKIOメンバー)が2018年2月12日に起こしたレイプ未遂事件について*1、各種メディアで取り上げられているが、テレビ番組では特にジャニーズ事務所所属の方たちがコメントをするところにニュースバリューがあるようである。

www.oricon.co.jp

www.huffingtonpost.jp

www.nikkansports.com

www.nikkansports.com

www.sponichi.co.jp

ただ、暗黙の了解・テレビや新聞では扱うことが「稀な事務所と放送局・メディアの力関係」が、報道現場にまで及んでいるとしたら、最悪の事態だと思う*2

ジャニーズ事務所も一般的な良識として、「山口達也のレイプ未遂事件は、山口が悪い」という点では一致しているようで、テレビ番組などでの発言を見る限りは、普通のコメントが出ている。

但し、これは第三者・知人程度ならばということであって、同じ会社の従業員としては落第点だと思う*3。無論従業員がそういう態度を取るのは、経営者がそう仕向けている、少なくとも表沙汰にしたくないという意向を持っているからであって、私もジャニーズ事務所のアイドルだから全てが悪いと言うつもりはない。

ただ、ジャニーズ事務所の先輩・後輩を越えて、被害女性へのフォローや山口達也を今後どう扱えばいいかについて、積極的なコメントがジャニーズ事務所アイドルには求められるのではないだろうか。一般的な大手企業ですら難しいことであるが、内部からの動きも期待したい。

 

そして、私がジャニーズ事務所以上に罪深いと思うのは、NHKである。現在までのところであるが、NHKは事件のあった2月から書類送検される4月までの間に、少なくとも「被害女性の訴え」自体は把握していた可能性が出ている*4

これには、私は財務省福田淳一事務次官セクハラ事件についてのテレビ朝日の対応と似た感覚を持つ。つまり、いちばん大事な被害者保護を優先せず、組織防衛・利害関係者との利害調整が勝ってしまうことである*5

NHKが疑われていることは財務省が行なった「事実関係を把握できないので、司法の判断を待つ」という完全に加害者側に立ったかどうかである

無論、財務省にも財務省なりの論理があったように、NHKも疑惑に対して何らかの反応はすべきだろう。こういう時に黙るのは少なくとも大組織がやることではない。メディアにも「公務員倫理」と同レベルの「メディア倫理」は求められると思う。

また、国会議員の方々も、予算委員会等でNHKへの質問はして欲しい。現状では、メディアを監視する機能をメディア自身が他国のように、第三者機関に委ねる事をしていない以上は*6、国会を通して明らかにするのが最も公正公平と言うしかない*7

野党議員も「山口達也レイプ未遂事件よりも他にやることがある」と言うよりは、伊藤詩織事件やテレビ朝日女性記者セクハラ事件の時と同じように「#Metoo」運動をして欲しい。でなければ、「NHKですら報道がねじ曲がるのが野放しになるのならば、利害関係者は#Metoo出来ないのだな」と最悪のメッセージが社会全体に広がる恐れがある。

全てがデマで、NHKも把握していたのがニュース速報が出た当日だというならマシだが(組織ガバナンスとしては疑われるとはいえ)、「危機管理」を言うなら、犯罪者の恐れがある人物を起用し続けた期間こそ危機に思う。

至って普通のことが、この異常な社会で「被害者保護という常識」が広まる事を祈る。

 

追記

5月2日に行なわれたTOKIOメンバー4人による謝罪会見は、松岡昌宏さんがほぼ満点の回答で被害女性をフォローしていたので、少なくとも「TOKIO」自体の面目は保たれたと思う(会見内容によれば、TOKIOメンバーに対してもまだ弱音を見せて、連帯を取ろうとして「辞表提出」をしているようなので、とてもではないが山口達也は被害女性に会わす顔はなさそうであるが)。

あとは、メディアがいつ被害女性を主語として報道するか、たとえ直接の被害者を引っ張り出さなくても、「レイプ被害者の声」というのは伝えられるので、海外の「#Metoo」をやたら気にする前に、まずは日本国内の被害者をエンパワーメントする報道を行なって欲しい。(2018年5月3日更新)

 

5月6日、ジャニーズ事務所山口達也契約解除の旨のFAXを各社に送り、その中で山口支援と被害者叩きの種になるようなことを自粛するよう報道各社に要請をしたことで、一般企業としてはほぼ満点の回答をしたと思う。メディアが積極的に被害者女性をエンパワーメントする情報提供について特集することは考えづらいが、それでも何も被害者へのフォローがないよりは、これでマシになると思う。改めて、TOKIO松岡昌宏さんのメッセージの意義を感じる。(2018年5月7日更新)

*1:山口達也が会見後に再入院、自宅で1人にしておけず 『朝日新聞』2018年4月29日

*2:近時では中居正広氏による事件の報道

*3:最近は、メディア企業でも自社の関係者の犯罪行為について、プライベートで起きたことでも「報じる」ことは通常となっている。ただ、後述するように社会的メッセージとしての正否については努力不足に思う

*4:山口達也、書類送検後も何食わぬ顔で『Rの法則』出演か?NHKは「ジャニーズ側から事件を聞いたのは25日」

*5:この場合、NHK内部では少なくとも「Rの法則スタッフ」、「NHK経営陣」、「NHKコンプライアンス担当者」の3つが関係すると思われるが、「Rの法則スタッフ」は当日まで知らなかったと今のところは言い訳が立つが、コンプライアンス担当者と経営陣がまさか当日まで知らなかったとは言いづらい。もし当日だとしたらニュース速報までが短すぎるからである。前例として「平成16年7月に発覚した芸能番組プロデューサーによる経理不正事件を契機とする複数の不祥事」があり、その後の改善案の中でも普段からのコンプライアンスが謳われている。ならば、余程通常の組織と違いがなければ、報じた日と把握した日とのラグについて、一定の説明責任が生じるはずである。

*6:欧米では、公費で第三者機関を設置し、政府・メディアから独立した監視を行なっているケースが主流である。日本は、BPOがこれに相当するが、放送事業者が委員の過半数を選ぶ点や利害関係者の多様性が不十分な点がある。

*7:NHK女性記者過労死事件については、事件発覚後から国会で追及がなされている